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カメラトークの内部向けに発行されていた「会報」で好評を博していた連載記事。
毎回全く異なるシチュエーション、奇想天外なストーリーで読者を煙に巻く。

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カメラトーク友の会会報
連載記事

南蛮渡来エンジェルの詩

サヨナラベースボール

1216SHOCK

いぬのあい

 

南蛮渡来エンジェルの詩

 おはようございます。どうです、寝起きは。いいですか。それともわるいですか。
 まぁうちの患者さんにそんな人はいないと思うんですがね。これはそう自慢でもあるんですよ。なんたって当世きっての老舗病院ですからねぇ。江戸の頃より創業してますんで、ちょうどわたしで十三代目になりますよ。十三という数字が気になりますか。これもそれも、遠い異国のSさんの影響とでもいいましょうかねぇ。不吉ですか。初代もまた異国の技術やら習わしなんかをせっせと持ち帰った人でしたから、私がとやかく言うことはできないんでけどね。そんなことで白いおまんまを食べれるのも異国のおかげというわけです。
 えっと、それでどんな症状ですか。

 先生、すみません、やっと起きれました。夕べはどうも気になることがあって、なかなか寝付けなかったんです。実はですね、病室のそこの、ええ、欄間がありますでしょ、その欄間に彫ってある笛吹き童子が、昨夜ね、動いたんですよ。いえ、うそじゃありません。見間違い?違いますってば。夜半すぎに、なーんかいい音色がするなあ、と思って目を覚ましましたらネ、こう、金色の、先の広いフエを持った、丸裸の男の子がネ、目の前を横切ったんですよ。なんとも言えなーいいい音色でしてね。あたしはびっくりしてこう、がばっと起き上がりましたよ。そう、そしたら件の丸裸の男の子が、金色の笛を吹きながら、ふわーっと、そこの隣りのベbドの虎吉つぁんの上らへんをぐるぐる回っていました。そうねえ、その子は浮かんでたんですよ。あたしゃとっさにね、その欄間を思いだしたんですよ。そんときは暗くて見えませんでしたけどネ。アア、こりゃーきっと、笛吹き童子さまだ! いいものを見れた、ナンマンダブナンマンダブ・・・ってね。
 エb?うそだろうって? うそじゃあありませんぜ先生。そしたら隣りの虎吉つぁんに聞いてみて下さいよ。あんだけ頭の上でピーヒャ宴sーヒャ奄竄轤黷トたんだから、ちっとは見てるだろうってもんですぜ。

 オイ、虎吉つぁん、ヤイ、おきろってんだ。先生にいってやってくれよ、夕べの、おめえも見たろうが? おーい、虎吉つぁんってば。あれ? 先生? なんですか? 虎吉つぁんは・・・? ハア? 今朝、死んでたって? まあ八十七歳まで生きりゃあ大往生だろうって? ハア・・・だからあっしが見た笛吹き童子も夢かなんかだろうって? い、いや、それだけは! 確かに見ましたって、そういやあその童子さまの背中にゃあ鳥みてえな羽根がはえてたなあ。頭の上にゃあ眩しいキレイなわっかがこう乗っかって・・・。そういやあの様子は、虎吉つぁんが一つも枕元においてた分厚い本の挿し絵に出てくる子どもに似てたなあ・・・先生、ちょいと見てやって下さいよ、その本の、そう、ええと・・・この子です。・・・何?この子は笛吹き童子じゃあねエ、天使さまだって? 耶蘇教の、神様のお使いの子ども? そんな・・・・・・・      
 あーうっーーうううーうっうーーーあうっ。ごごっ、ゴシュジン様、お、お呼びでしょうか!わっわわたくし、エエッエンジェル浩二です。ななにぶん、久々なモンデ、うううまく話せませんがななっ何でもおっしゃってくださいませ。ととっところで、皆さんおあつまりで何かあったんですか。ええっ!!! ペナントレースでカープが8.5ゲーム差をつけて首位独走中げな! そっそれはこの浩二、てって天からエールを送ってた甲斐がありましたよ。さっさ幸男に、はっは早く伝えなくてはですね。えっ、幸男とは誰げなと。わっわ私が以前カープに居たときの同僚ですわ。えっえーですか、舌もようやくなっなめらこーになってきたところで、ちょっと自分のこと話しますわ。

 わたくし、今はこのようにお二人がさっきブツクサ言ってたよーに、鳥みてえな羽付けて頭の上ワッカ付けてますがねー、遥か六十年ほど前はそりゃ男前で、赤ヘルなんて異名を付けられてぶんぶんバット振って、ホームランの山、築いてきたんです。その辺のこと、この「プロ野球名鑑83年版」と私の著書「赤ヘル、腹減る」に詳しく載ってますから、名鑑で記録の数々、名文句が沢山ちりばめてありますから、どうぞ読んでみてください。そっそう、裏表紙にサイン入れときますんでこりゃ値打ちありますよ。ほら、この数字。何かって、私の背番号でしたもんです。たしか、カープの八番はその後、永久欠番なったと聞いてますが。

 えっ、今補欠に付けてるやつがいるげな。しかも、八番付ける選手は成長しないというジンクスがあって、チームも永久欠番にするとの噂もあると。そそそっそうですか。まぁ、どんな理由とも永久欠番にゃ変わりませんわ。そっそそれはそうと、ご主人様はどなたで。えっ! 誰もおまえなんか呼んでないと。それより、前から迷惑しているほどだと。困りましたねー。あなた、私を指差したでしょ。ほらその本の。いや、「赤ヘル、腹減る」じゃなくて、そっちの分厚いほうで。決まりなんですよ。その挿絵、指差したらお呼びだって。ねぇ。

 あの・・・そこのお爺さん、お爺さん。面会時間はもう終わりましたよ。ええ、あなた。何ですか、そんな猿股一枚で赤いヘルメットなんかかぶっちゃって。エ? 何でスって? ええ、私はここの婦長です。長部すみよ、四五歳、これでも看護婦歴は二十五年、子供も立派に育て上げて、もウそろそろ永年勤続の温泉旅行も貰えるってもんです。エ?そんな事じゃない。もう!いいじゃないのよ、なんなのよ! ホントに、出てって下さい、ここは空き病室です! ハア? そうですよ。ここにはここ二カ月誰も入院されておりません。

 そんなはず無い?いいえ!勤続二十五年のこのあたしが言うんですから、間違いはありません。は?寅吉?ヤス次郎?八十六歳の爺さん?中年の親爺?そんな人たちはいませんよ。さっきからぶつくさぶつくさ、カープがどうの、バットがどうの。物騒ったらありゃしない。ここは佃島中央病院!野球場じゃありません!
 ハア?呼ばれてきた?御主人様?何いってんのかしら、このお爺さん。怖いわ。あら?・・・もしかして、地下病棟の患者さんかしら?いやだわ、こんなところに来ちゃうなんて。まあ。ちゃんと名札を胸に付けて下さいよ。ええと・・・モリ銃茂男さん。もうすぐ起床時間ですからね。

 は?俺はカープの四番、ミスター赤ヘルだ?あたしは衣笠と山本しか知りませんってば。はいはい、さっさとして下さい、行きますよ!

 「おはようございます。」

 ハッ!これは坊ちゃん。おはようございます。イャわたくしなぜこんなところで。

 「どうです、寝起きは。いいですか。それともわるいですか。」

 そんな、そんな朝から坊ちゃんの顔を一番に見まして、どうして寝起きが悪くなりましょう。それより、またやっちゃいましたか、わたくし。昨日はここの婦長さん長部すみよさんの勤続二十五年パーチーで、はい。懐かしー顔の人も大勢いらっしゃって、そりぁ上機嫌で、飲んでた事は覚えているのですがねぇ。あっ!そうそう、昨日は患者の皆さんも余程重度の方でない限り、お酒もふるまわれて。そりゃ、みなさん楽しそうに飲んでましたっけ。

 そうそう思い出しました。そんなこんなで大騒ぎしてたら、ホラ絶対安静のなっ何でしたっけ。地下病棟の方が突然入ってこられて。あのときは皆さん、顔面蒼白になられて。あとで聞いた話では、とても起きてこれる体じゃないとか。そしたら九年前にお辞めになられた、寅吉先生がいちはやく駆け寄ってきて。そうそう、あの先生ってオペがたいそう上手でかげで皆さんブラックタイガーなんて呼んでましたっけ。それにこのおんぼろ病院で、エッ?・・・イヤイヤ・・この伝統ある老舗病院で法外な手術料を取るとかで、結局何でしたっけ、一番上手な先生でしたが悪い噂がたちまして、追い出すような形で・・。あの時は坊ちゃんもさぞかしお辛い思いをしたかと・・・

 それで昨日の晩ですよ。まさか、私も寅吉先生が来ていたなんて知りませんでしたからねぇ、駆け寄ったとき先生、冷や汗ながされていたのよーく覚えています。何でしょうねー。その後はご承知の通り。こんなおいぼれの私だって、記憶はしっかりありましてね。あの地下病棟の方、そうそう名札がついてましたね。えーっと、モリ銃茂男さん、モリ銃茂男さんです。何やら色々小道具用意してましてね。やっとこ、お止めなさったのが主役の婦長さんでしたから、さすがと思いまして感心してたのですよ。それから、私嬉しくなって、がぶがぶ飲んだようでさっぱり後は覚えてませんわ。それで、どうなりました?

 「まぁうちの患者さんにそんな人はいないと思うんですがね。これはそう自慢でもあるんですよ。なんたって当世きっての老舗病院ですからねぇ。江戸の頃より創業してますんで、ちょうど私で十三代目になりますよ。十三という数字が気になりますか。これもそれも、遠い異国のSさんの影響とでもいいましょうかねぇ。不吉ですか。初代もまた異国の技術やら習わしなんかをせっせと持ち帰った人でしたから、私がとやかく言うことはできないんでけどね。そんなことで白いおまんまを食べれるのも異国のおかげというわけです。えっと、それでどんな症状ですか。」


サヨナラベースボール

 モリ監督、自分にはこれが限界です。プロテストを受け続けてハや12年、もう若手じゃア無くなってしまいました。自分は、アの栄光の巨人のユニフォームを着て、藤田投手のカーブを打ち、クロマティさんと一緒に「ココガチガウネ」をやり、長嶋選手と一緒に手をヒラヒラさせ、中畑選手と一緒に燃えろコールを受けるのが小学校のリトルリーグのころかラの夢でした。篠塚選手のまねをして腰をしならせ過ぎて同級生の女子からオカマと呼ばれたことも、そのころはかえって嬉しかったものです。

 でももうダメです。高校時代は石川町のバースとまでいわれたコの黄金のスイングも、いまじゃあ草野球投手からヤットホームラン4本です。監督、自分はくやしいっす。自分の夢は、こうしてマウンドの魔物に喰われてしまうのですね。監督、自分の夢を、自分の存在の証を、監督がつないでくダサイ!何とぞ、監督!おねがいします!自分の26年の野球人せいは、ここに終わりを迎えます。ク、クク・・・

 ファースト アツオ 背番号34

 アツオ選手、こんな呼び方も初めてすることになるな。おまえがそこまで我が読売、我が巨人軍に情熱を傾けていたなんてわしも町のいち監督として大変誇りに思うよ。町から若者がどんどんいなくなるこのゴ時勢、おまえ一人のために町内リーグを呼びかけて、9年過ぎたあの正月を覚えているか?町をおこして巨人の選手にうめーもんくわせよーって。そんでその見返りに野球教室を開いてもらって。そんな5年越しの計画をおまえとわしで成功させたことをよー。おめーはもう野球選手じゃちっとも若いとは言えねー27でな。わしもおまえがうっすら涙をためて、山倉選手のミットの匂いをかいでたのを木陰からじっと見たのを覚えてるよ。おまえ山倉選手のこと覚えているか?おまえはやれクロマティーだ、やれ中畑だ、やれオカマの篠塚だっていいやがって。どれだけ金つめやー、いいかなんて考えもしねーでな。それがよ、山倉選手ならみかん10箱の相場って聞いてな。すぐに手配して山倉選手の実家と自宅に5箱ずつ送ってな。結局、勘定すんのにみかん箱をつかえって町の博識に聞いたの鵜呑みにしてな。山倉選手、野球教室が終わってからなんかいいたそうでな。わしゃお金のことなんかすっかり飛んじまって。そんでしょうがねーからまたみかん持って帰ってもらって。今思うと栄光の巨人軍の選手に現物支給はちょっとすまなかったな。・・・

 そうか!山倉選手に頼むってのはどうだい。あれだけの度量がある選手だ。名球会にも顔が効くだろうよ。いっちょ、八百長してもらうよう山倉選手にことづけたのもうじゃねーか、な!そんで、おまえが名球会からホームラン5本かっ飛ばしてこい!まだ、夢は捨てられねーぞ。あの名球会からホームラン打ったってマスコミは大騒ぎ!読売巨人軍もだまっちゃいねーぞ、なアツオ!

 か、監督・・・。自分のことをそれほどに事細かく重箱の隅をつつくように覚えていてくれるのは監督だけっすよ。オレ・・イや、自分なんだかもう泣けてきたっす。でも監督、自分は、そりゃあ山倉選手のことをなまくらだの何だのっていってましたけど、あのまゆ毛と辛抱強さは尊敬してたっすよ。でも自分、実は、高校の時、同じ野球部のキャッチャーの笹内に迫られてたんす。おかげでキャッチャーって言えばヤツと同じに迫られるんじゃねーかってちょっとトラウマっすね。山倉選手には済まないことをしたなあ。済まないついでに白状しちゃいますとね、あの時山倉捕手のキャッチャーミットの匂い嗅いでただけじゃなくてね、靴下自分のトすり替えたんすよ。気が付きませんでしたか?野球教室の後の「山倉選手を囲む会」の時、山倉選手の靴下の裏にマジックで「アツオ」って書いてアったの。この期に及んで八百長頼むなんてコとは自分にはちょっと・・・。アッでも。大洋ホエールズの遠藤投手なら、同じ町内出身ですし頼めるかも知れません。遠藤投手には盆正月のたびに特打ち投手やってもらってずいぶんお世話になったもんで。でもお世話ついでに遠藤投手のうちに置いてあった中畑選手の手拭い勝手にもらっちゃったこともアったなあ。あの手拭いは、中畑選手の出身の矢吹町の、中畑選手がホームラン打つたびに花火あげてた町長が、栄光の9年連続リーグ優勝の時に作った記念の手拭いだったんだ。オレ、やっぱり遠藤投手にも借りが有ります。

 監督、やっぱり自分、八百長で名球会からホームラン打たせてもらうような情けないコと出来ナいっす。いくらサンデー・マサカリ・チョウジや金田さんが年取ったからって、自分にとっては足の裏しか拝めない大先輩です。悲しいけど、草野球投手からホームラン4本、これが自分の実力なんすよ・・・。

 そうか。わしも歳じゃのー。本来ならここで、おまえの顔を張り倒したいところじゃがこれだけはおまえに言っとく。それにうちの神棚にしっかり額にいれて飾ってある囲む会の写真を見たら、山倉がわしに乗り移っておまえにしゃべりかけるじゃろうしな。その前におまえの言う山倉選手の靴下の件じゃが、真ん中に座る山倉のココの部分じゃな。うーん、雑炊かなんかの汁が飛び散って茶色くなっているが、これか?それとももう一方の靴下・・これも何か黒いが分かりずらいのう。まあ、よーく目をこらしたら「オツア」と見えん訳ではないが。ホッホホ、そうこうしてるうちに山倉が乗り移ってきたぞい。

 「おやおや、これはあの日の若者よ。大体のあらすじは監督に聞いた。アツオ君、よーく聞け。君は遠藤に紹介してもらい田代のところへいけ。まずはベーランをすることだ。足腰がホームランを生む。ヘルメットの大きいやつをお土産にするとよいだろう。それとワタクシゴトじゃが田代の頭は天パーかどうか調べてきてくれ。ではさらばじゃ」

 クウ・・くう。アツオよ、山倉から話は聞けたか。わしもこれで安心して往生できるというものよ。これからはおまえ自身で名球会からホームランを撃つことじゃ。何もしてやれんかったが以前わしが名球会と決闘をしたときの写真がある。これが何かの役にたつとよいのだが。バタッ!

 おお、山倉捕手・・・あの時のことを許してくれたんですね。靴下のことを・・・。ついでにもう一個白状します。実は靴下だけじゃなくてユニフォームのアンダーウエアも頂いたんです。自分、中学の先生から、盗癖がアるってよく叱られてました。済みません。いまは立派なおやじになってます。アッまだ独身ですけど。でなんですって?田代選手?アッ田代選手もダメです・・自分、田代さんが三審したとき、ネット裏で思いっきりでっかい声で「コのでか頭ー、クそしてひっコメー」って言って、田代さんにガン飛ばされたことがアるんです。自分野次専門でしたんで。ええ、愛すればこその野次ですよ、もちろん。いやあ、よく言いました。「カッケフッの耳は、サッルのっ耳ー、エッガワッのはっなはっブッタのっ鼻ー」ハア。てな訳でねえ。どうも自分はプロ野球界に顔向けできないやつでして。まあこれが12年もプロテストに落ちまくった理由って言っても過言じゃないくらい・・・。それにしても山倉さん、相変わらず立派なまゆ毛ですねえ。むにゃむにゃ・・・カッ監督っモモリ監督っ!どどどうしたんすか?イヤだなあもう、話してるうちに言葉遣いまで年寄りになっちゃって。監督まだまだ現役じゃないですか。去年だって壮年草野球リーグの首位打者だったんでしょう?あの江夏の21球目を空振りし、22球目をファウルチップでアウトだったじゃないですか。まあ江夏さんもいい歳だけど、監督すごいっすよ。ねえ監督。アッ監督!コの監督が名球会と対戦したときの写真の、レフトスタンドの一番端の最前列にいるのって、横浜に行った須藤元巨人軍コーチじゃないですか!あれ?その隣りは、おおっ若き日の牧原だ!おおっ、スミスとホワイトだ。何でか田淵もいますよ。すごいなあ、監督。いろんな人が見にきてますよ。これならまだまだ現役バリバリでいけるじゃないですか。ねえ監督!

 あれ?監督?か監督っイケねえ、冷たくなってる。監督うーっ!クククウッ・・・あ、監督の両手が・・・堅く、堅く握られている・・・コッこれはっまさかゲンコツ山のタヌキさん!?イや、そんなはずはない。これは、これはきっと、そうだっ、アア監督っ、こんなときまで監督はバットを、バッとをっ放さなかったのですねっ!ウウウッ・・・  

  これ・・・監督の墓前に供えてください。自分は、全くいい選手じゃありませんでした。監督には、いつも世話ばっかりかけて・・・。ウウ、監督、済みませんでした。自分は最後までやっぱりだめなやつです。

 草野球は卒業したけど、やっぱり名球会には歯が立ちません。あと、これは、おれたちの夢です。コの手に掴むことはなかったけど、コの、名球会サインボールだけは、永久に不滅です!


1216SHOCK

大騒ぎじゃのう。ぽけ門はイイ弟子だったのだが。アレはアレじゃ、儂はフリッカーっつう技術のせいじゃとおモッとる。60年代後半からアメリカアヴァンギャルドフィルム界で流行りだした、有色無色の強烈な光を連続で明滅させるアレじゃ。確かリチャードなんとかという若者がT.O.U.C.H.I.N.Gとか言う短編をつくっとったぞ。色がナイのに色に見えてのう、なかなかおもしろかったわけじゃが、当時の若者はまあ変な錠剤をくわえてみたりしてたろうから引き付けなんかはあたり前じゃったとしての子供らは、ナンとまあシンクロしやすい質じゃ。もうちっと心頭滅却して鍛えニャならん。モリ師範、いまより下賎に降り、この道場の宣伝を流布してきてはくれぬか。それにしてもぽけ門騒動、640人に増えたぞエ。それだけおれば来年も白いおまんまがたらふく喰えるってもんじゃ。のう。

アツ赤帯。今や世間では、おぬしのことを何と言っておるかわかっての儂への申し入れととってよいのだな。よくもまあ、ぬけぬけと。悪行重ねたおぬしがちびっ子の道場離れに拍車をかけられたもんでポケモンを利用した経済援助とは。しかも、儂のネームバリューまでわが物にしようと。アツ赤帯よ、おぬしの含蓄はヨークわかっているつもりじゃ。根回しも流石のもんと言ってよいのだろう。しかしじゃ、米国よりアバンの使徒を呼び寄せたことで、おぬしの力が誇示できるとでも思っておるのか。わしも魔界のプリンス、おぬしが妖怪よばわれされているのを見てると儂の若き日の社交界とは別世界でな。お互い、妖怪の妖術という道を歩みながら分岐点をはるか遠くにしたようで寂しい思いがする。わが弟子、アツ赤帯よ。身辺をきれいにしわがもとにかえってくるのじゃ。妖怪は妖怪らしく生きるのがなすすべじゃ。ベム様、鬼太郎様がどんなに人間界と手を結ぼうと努力されたか。それが結局、あの結果じゃ。もう、最後じゃ。帰ってきておくれ、サナトリュームよ。

フハハハハハ!積年の大怨に血の裁きを!じゃな。とうとう本音を吐きおったか!モリ師範、もとい、魔界のプリンス、否、本名エチル・アルデヒト・泰弘よ!!!プリンスプリンスと言ってもたかだか2000年前に厩戸の王子に目をかけてもらったくらいのものじゃろうが。そこへ行くと儂の家系は、仏教発祥の地、インドの菩提樹の樹下の墓石を護っておった先祖がゴウタマ・シッダールタがお生まれになるその直前に虎を退治したことからはじまっているのじゃ。根は深いのだぞ。しかも北伝仏教と共にこの国へわたってきたからのう、儂のうちは臨済宗じゃ。修業するぞう、修業するぞうー。ワハハハハハ!オマケにじゃ。眠れる獅子、ここに目覚めるでな、最近は電脳化、国際化をはかっとる。時代に乗り遅れたらいくら妖術が使えても生き残れまい。悪鬼羅刹、鬼畜、何とでもいうがよい、京都会議にキとった外人を井戸に封じ込めたのも儂じゃ。お主に前々から言おうとおもっとったのが、妖術をバカにすると怖いぞよー。御主の家の裏山には儂の従弟の九尾の狐がすんどるからのう。実はヤツは厩戸の王子に排斥された物部氏の使い魔だったから、御主の隙をねらっとるのだぞ。そのうち行灯の油を舐めにいくぞよ。気をつけるがよいぞ。折しも儂はいま超おなかが痛いって感じーだから気がたっとる。そうそう不穏な空気を立てぬほうが御主の身のためじゃぞ。フフフフフフフ。

おもろない。パパ、おもろないって。ほんまに今日の今日はいわせてもらうけど、パパの今までの二作とも、あたしメッチャすかんねん。始め書いた天使のやつにしてもそやけど、あれ何?。パパ、校了した時、「火祭りに間に合わへん!」とかなんとか言って、サルマン飛び出てそのまま大文字山登ったって言ったやん。なんか大学時代にラグビーしててて、その頃は頂上タッチして十五分で降りてきたから昔の儂と勝負やーとか言って。そんな中男のおっさんになって何してんねん。ほんまあの日は捜索願いだして。 パパ知りあいちっともおらへんしどこも当てなくて、めっちゃ心配したちゅーねん。結局、山の裏降りて、琵琶湖で夜釣りしてるとこ変質者と間違われて。それで、帰ってきたら、三日三晩飲まず食わず、あたしも部屋にいれへんで。できたのがあの巨人に入れないただの馬鹿男の話やんか。もう、お願い。これ以上、あたしに恥じ欠かせんといて。学校で先生にまで冷やかされてるんやから。ね、かわいい娘のためと思ってこの妖怪大戦争みたいの「群像」にだけは発表せんで。ね、パパ。

発表せんで。ね、パパ。よし、解ったぞ康子。おまえがそんなにいうんなら、パパおまえのいうことを聞くぞ。パパだって何もそんなにやんちゃじゃないぞう。娘思いのイイお父さんだ。ハッハッハ!よし!ここは康子のいうことを聞いて、「群像」じゃ無くて「光の國」に投稿することにするよ・・・・・・ハッ、オ、オレ、ねっ寝てたのか。そうだよな。何変な夢見てんだロ。そんなはずナイよ。オレ先週モリコに振られたばっかりじゃないか。あー。振られたショックかなあ、子どもがいる夢まで見ちゃってよ。このところスランプだし、何だか胃もおかしいぜ。何だかさあ、やっぱり今どき時代オクレなのかなあ・・・ホラー小説なんて。はやんねーんだよな、きっと。ホラーでもこう、安部公房みたいなシュールなヤツか、京極夏彦みたいな再構築モノか、でなきゃ岡島二人みたいなモダン・サイコかだよなーいまって。だめかあー。オレなりに頑張って歴史を取り入れようとして、梅原猛とか読んだりしたんだけどなあ。自分で書いてて限界解ったもんな、だからあんな夢見るんだよ。あーーそれにしてもショックだよなあ。あの「ムー」の編集者の野郎、俺の作品「妖怪大戦争」なんていいやがった。おかげでやけっパチになってモリコに振られるし。それにしてもモリコもひでーよなあ。何も銭湯の出口で赤い手拭い首に巻いてたくらいで怒らなくてもいいのによ。揚げ句の果てにはあなたの押し入れに入ってるあの土方ヘルメットとゲバ棒、超ダサイわ!なんて、普通そんなんで俺を振ったりするか!?あー胃がイテエ。ウオーこうなったら今日は歌声喫茶でロシア民謡を歌って歌って歌っちゃうぞウー。なあ・・・モリコ・・・・・オレって何も間違っちゃいナイだロ?

1997年12月16日の夕刻、テレビ東京系のアニメ「ポケットモンスター」を見ていた子供たちが次々に発作を起こし、警察庁などの調べによると、全国で約七百人が病院で診察・治療を受けたという。


いぬのあい

何だってそんなにセンチメンタルなんだよおまえ。俺が「犬」って呼ぶのがそんなに気にくわないのか?だけどおまえホントに犬みたいだよ。そうやってただついてくんなよ。何でも欲しい欲しいってばっかり言ってても何も出ねえよ。しょうがねえだろ。この前やった新しい人形はどうしたんだよ。もう飽きたのか?おまえなあ、愛されたいってそればっかりじゃつまんねえぞ。おまえ本気で愛したか?あのセバスチャンをさ。愛ってさ、相対的なもんだと思うよ。まあ犬に言ってもしょうがないけどさ。ほらまたすぐ泣く。泣けばいいってもんじゃないの。自分を可哀相がってばっかじゃん。何だよ結局それって軟弱なナルシシズムじゃねえか。もっとかわいげのある犬だったらよかったよ。何だよ、文句あるなら吠えてみろよ、ワンとかキャンとか。

文句はないけど、それでもあんまりだよ。僕だって愛すことくらいできるよ。あの人形だってお風呂に入るときもずっと一緒だったんだから・・・おとといまでは・・・。それが、あいつときたらこんなに愛しているのに僕のいない間にメモリーカード全部消しちゃっだんだ。二カ月かけて、もうすぐクリアっていうところで。だから、水にぬらして180度の油の中に入れてやったんだ。面白かったよ、油がすごい飛び跳ねて。そこにいたらこっちが火傷するからね、遠くに逃げたんだ。校舎の屋上から見たら、真っ黒い煙がモクモク出てるの。きっと僕の愛が大きすぎたんだろうね。なんかその煙、ドックフードみたかったもん。たださ、大きなゴミ袋背負ってここを出て、セバスチャンが迎えてくれるのならね、そんなことするつもりはなかったんだ。セバスチャン、今日も僕のこと無視したんだ。もう、あれから三週間が経つっていうのにね。

だからさあ、そんな個人的すぎることじゃないんだってば。断片の景色の美しさに囚われ過ぎなんだってば。おまえのそのきれいな景色に憧れたこともあったけどさ、結局夢ん中なんだよな。ヒーローはもういないんだよ。わかるか?ポチ。絶対悪なんてもうこの世にはないだろ?だから必ず勝ってしかも正しいヒーローもいないんだよ。誰も助けてくれないよ。おまえ捨てられたら一人で生きなきゃいけないんだぜ。できる?勿論俺も無理だよ。自分が選ばれた存在だって思ってないだけましだけどさ。そういえばおまえ、いつか言ってたよな。自分は人間じゃなくて天使だ、この世のNGを消すために生まれた、って。あれ未だに思ってる?だとしたらちょっと尊敬するよ。壊れてるけどな。どうせ俺もおまえも人形に頼るしかないんだけどさ。・・・これって代理願望かなあ。俺とおまえってさ、似てるのかな。とにかく、セバスチャンはもう死んじゃったんだ。そんなことでオナニーするなよ。泣けてくるぜ。・・・俺さあ、こうやって責めないと興奮しないんだ・・・これって異常かなあ・・・ポチ・・・。

セバスチャンに初めて会った時、彼はこんなことを言ったんだ。「背番号を付けた盲目の老人がきっと宇宙全体を支配するだろう。そのとき君は彼らにとっての天使になるだろう。」って。

僕、そんなことセバスチャンに言われる前から知ってたんだけど、その時は熱心に話を聞こうと一生懸命彼の目を見つめていたんだ。そしたらね、セバスチャンたら涙をいっぱい溜めて僕を抱いて、いっぱいいっぱい食べてくれたんだ。あんなに恍惚としたことは後にも先にもきっとないと思うくらいにね。セバスチャンがドックフードになってもう三週間になるけど、僕決心したんだ。セバスチャンを組み立てようって。だから昨日は朝から絨毯に落ちてるセバスチャンの髪の毛と陰毛を一本一本拾って、半透明のゴミ袋いっぱいしたんだ。気が付いたら翌日の朝を迎えてた。あの日、昆布みたいな匂いを出してドックフードになったセバスチャンは、今はこんなオレンジ色のナイロンタワシみたいだけど、きっときっと前みたいに逆上がりだってを教えてくれるセバスチャンになるよね。そしたら僕、彼の背中に「壱」って刺繍するんだ。  ハッ、笑っちゃうね。あの人形がおまえの大切な預言者って訳だ。ロマンチックって言うよりも変態だよ。おまえみたいなやつが人刺しちゃったりビルの屋上からリープしたりするんだろうね。おい、じっとしてろよ。おまえにとっての世界って何なんだよ?新しい人形を手に入れるたびにそいつと奴隷ごっこして結局壊しちゃうんだ。じっとしてろってば。愛したつもりになって。人形しか愛せないのかよ?モラルがどうだこうだって言ってるわけじゃないぜ。おまえにとってのリアルばっかり見つめんなって言ってんだよ。少しは周りも見ろよ。俺のことも見ろよ。怯えてしっぽ巻いてんなよ。怖かったらただ生きろよ。諾々と生きることはそんなにも無意味なことか?意味が欲しいっておまえが言うから「犬」って名前つけてやったんじゃないか。それでやっとおまえはおまえになったんだぜ。おい、動くなって。また首輪きつくするぞ。おまえを拾ったときおまえはただの■■■■■■だったんだ。もう戻りたくないって泣いてたじゃないか。だから連れて来たのに。

 僕がただの■■■■■■の頃だって、「犬」になった今だってそれほど細菌レベルでの変化は見当たらないんだ。だって■■■■■■も「犬」も、みんなが思い付いたままに呼んだことに過ぎないんだもん。僕とそういうのの間には絶対そうじゃないとだめってことは一切ないんだから。笑うのは君の自由だけど、セバスチャンが僕のことを天使だって言ったとき、僕だって子宮の中にいた時から天使だったんだから、初めて僕のことに気付いてくれたと思ったんだ。意味が欲しいって言ったのも早くみんなに気付いて欲しかった。でも、それが「犬」だなんて。セバスチャンが生きていれば、「犬」なんかにならずに済んだのに・・・。セバスチャン、ごめんよごめんよ・・・、ドックフードになんかにしちゃって。君がこんな「犬」の僕をみたら泣いて悲しんでくれるよね、セバスチャン。

 アッもしもし!もしもし?警察?すいません、行方不明なんで捜索して欲しいんですけど。ええ昨日の夕方おっきな半透明のビニール袋にナイロンの毛を一杯詰めたやつを抱えて、どうしよう、どうしようってうろたえながらマンションのベランダをうろうろしてたんですけど、そのすぐあとに見たら居なくなってたんです。エ?地面?無論見ましたよ。でもそんな、あいつが飛び降りなんかするはずは・・・、それに死体もなかったし。名前?犬です。エ?いえ名前が「犬」です。たまに「ポチ」って呼んでたけど・・・でも他に知らないんです。多分男です。俺がいないと絶対泣くんですあいつ。巻き毛がびしょびしょになるくらい。特徴?さっき言ったナイロン袋と、あと首輪してます。エッ保健所へ行け?だから犬じゃありませんってば。セバスチャンって人形をね、あいつこの前壊しちゃってね。それでひどく悲しんでたんだけど、実はあれ俺が原因なんです。メモリーカード消したのは俺で、だってあいつモニタから3センチ位のところに目をつけてゲームしてる・・・エ?あいつ?■■■■■■なんです。アッ、切らないで!・・・クソっ!何だよこいつ!畜生、こんなことしてる間にあいつどっか行っちゃうじゃん、一晩探したのにあいつどこ行ったんだ、外なんか滅多に出たことないのに怖がりで他人を見ると吠えるし暗くなると震えながら俺の後ろに隠れて・・・なんで居なくなったんだよ。俺が昨日の朝めちゃくちゃ殴ったからか?・・・どこ行ったんだよ、ポチ・・・

 僕は飼い主の元から逃げるように去った。もちろん首輪はつけたままだけど。今僕は飼い主を失った「犬」達がそうするように見慣れた風景の中をぐるぐる回っている。セバスチャンがドックフードになるまで見守った校舎の横も見飽きるくらい通った。もう僕には髪の毛と陰毛だけの彼の残りかすしか持ち合わせていない。それと、後一食分のドックフードと。初めはセバスチャンを組み立てるために綱を切ってまで逃げてきたのに、所詮僕は一人じゃ生きていけないんだ、ヒーローにだって天使にだってなれないんだ、と分かると例えセバスチャンが生き返ったとしても「弐」番目のセバスチャンが現れるまでの人形みたいにしか思えなくなってきて、校舎の上から半透明のゴミ袋を逆さまにしてオレンジ色の髪の毛と陰毛を風下に向かって飛ばすことにした。時に空中を天に向かって煽るように見えたナイロンの毛も風の力をかりることが出来なくなると校庭の真っ赤な土と同化して消えるように散っていった。

「愛してたよ、セバスチャン」

僕はそう言って最後のドックフードを食べ、首輪をはずした。

 俺の傍にあいつがいる。小さく小さく丸くなって眠っている。なんだおまえすごく痩せたじゃないか。俺はあいつを見つけた。今度は観念したのかまるで抵抗せずに黙ってついてきた。首輪はなくなっていた。あの濡れたように光る目玉もなくなっていた。指も4本なくなって、脇腹にはきれいな赤い孔が開いている。あの忌々しい人形のことはもう忘れたようだ。やっと俺のことだけを愛してくれるようになった。そうだよ、愛は相対的なものなんだ。俺はおまえに幻滅することは決してないんだぜ。もしあるとすれば愛という概念に対してだ。俺はリアリストだからさ。そうだ、新しい名前を考えたんだ。おまえを見つけたときさ、おまえ河原の土手で野犬についばまれてただろ。周りにはセイタカアワダチソウが黄色く高く生い茂っててさ。すごくきれいだったよ。あの時俺思ったんだ。おまえは密林の宮殿で沢山の野獣に愛撫されて喜んでいる王様みたいだって。密林の王。笑うなよ。しゃれじゃないんだぜ。あの風景は凄く空気の密度が濃くてさ、俺涙が出たよ。だからおまえの新しい名前は、モーニング・グローリイ。熱帯産のヒルガオの呼称なんだ。俺の好きな花さ。きれいだぜ。静かに、王者のように森の奥に咲いてるんだ。いい名前だろ。少し長いけどな。だけどホントよかったよ、おまえが戻ってきてくれて。新しい名前に相応しいように首輪も買わなきゃな。・・・愛してるよ。

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